川上弘美『なめらかで熱くて甘苦しくて』を読みました

川上弘美氏著『なめらかで熱くて甘苦しくて』を読みました。

 

タイトルからなんとなく想像がつくとおり、生命(主に性)にまつわるお話を集めた短編集です。

 

全編を通して、どことなく神話的というか、寓話的というか、そういった色合いが濃いのですが、最後のmundusの章ではいよいよその気配が最高潮に達し、まるで聖書のような物語になります。

 

私が特に読み応えを感じたのは、aerの章とmundusの章でした。

 

aerの章では、子供を身籠り産み育てる母の、世間的にいえば直裁すぎる心持ちが描かれています。作者がそういった意図を持って書いたとは思いませんが、私はこの章を読んでいて、オルナ・ドーナト氏著『母親になって後悔してる』を思い出しました。もし『なめらかで熱くて甘苦しくて』を読むことがあれば、『母親になって後悔してる』も是非読んでいただければと思います。子を産み母となるということの不可逆性というか、母という存在になることの絶対性みたいなものを感じる作品です。

 

mundusの章は、なんだか阿部工房氏の作品のような世界観でありながら、どこか神話的というか、聖書でも読んでいるような不思議な感覚になります。到底日常に根ざしたとはいえない描写が続くのですが、不思議とありありとその光景が目に浮かぶのです。そして、幼心にぼんやりと「性」を感じたことが誰にもあると思うのですが、その経験が「それ」を通じて妙に湿度高めに描かれています。

 

これまで私の読書感想文を読んでくださった方は薄々お気づきかと思いますが、私は小説を読むのは大好きですが、その感想を言語化するのはものすごく下手なので、私の感想を読んでいる時間があったら是非作品自体を読んでいただければと思います(笑)

 

同じく川上弘美氏著『真鶴』を読んだときに似た感想を持つ作品で、川上氏の作品の中では比較的好き嫌いの分かれそうな部類かと思います。私は『真鶴』も本作も、どちらも楽しめました。